漫画『ブラック・ジャック』は、手塚治虫による医療漫画の傑作であり、連載開始から半世紀以上経った現在も、多くの読者に読み継がれている不朽の名作漫画です。
1. 歴史
連載開始と成立の背景
『ブラック・ジャック』は、1973年11月19日から1983年10月14日まで、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて連載されました。連載終了後も、掲載誌を変えながら不定期で読み切りが掲載され、合計243話が描かれています。
誕生のきっかけ: 1970年代初頭、手塚治虫はそれまでの少年誌中心の活動から、『虫プロダクション』の倒産などを経て、新たな作風を模索していました。当時の少年チャンピオン編集長からの「医療ものを描いてほしい」という依頼を受け、連載が開始されました。
作風の特徴: 従来の勧善懲悪型の少年漫画とは一線を画し、無免許の天才外科医を主人公に据え、人間の生命の尊厳、医療倫理、社会の不条理などを深く掘り下げました。毎回完結の読み切り形式が基本で、多くのエピソードはシリアスなテーマを扱っています。
高い評価: 医療をテーマに扱った作品としては異例の大ヒットとなり、連載が開始された1973年度の第2回日本漫画家協会賞特別賞を受賞するなど、手塚治虫の晩年の代表作の一つとして高く評価されました。
後の展開
手塚治虫の死後: 手塚治虫が1989年に亡くなった後も、作品の影響力は絶大です。
多数のテレビアニメ化、OVA化、劇場アニメ化が行われました。
2011年には、手塚眞(手塚治虫の長男)の監修のもと、ヤングブラック・ジャックの企画が生まれるなど、現在も様々な形でスピンオフ作品が制作され続けています。
2. あらすじ
主人公と設定
主人公は、ブラック・ジャック(本名不詳)という無免許の天才外科医です。幼少期に受けた爆発事故で瀕死の重傷を負い、奇跡的に生還した経験から、凄腕の医師となります。
外見: 顔の半分は継ぎ接ぎだらけの皮膚で、髪の毛は白黒のツートンカラーという異様な容姿をしています。これは、幼少期の事故の後、皮膚移植手術を受けた際の経緯に由来します。
高額な報酬: ブラック・ジャックは、その手術料として、患者に法外な金額(時には億単位)を請求します。しかし、これは単なる金銭欲からではなく、患者や社会に対する試練、あるいは医療の持つ重みを表現するための手段であり、困窮した人々や、彼が真に助けるべきだと判断した患者からは、一切報酬を受け取らないこともあります。
物語の展開
物語は基本的に一話完結の形式で進行します。
神業的な手術: 彼は、現代医学では手の施しようがないとされる難病や、他の医師に見放された患者を相手に、メス一本で奇跡的な手術を成功させていきます。
命の重み: エピソードごとに、人間の欲望、エゴ、親子の情愛、生命の神秘、そして医療倫理の矛盾など、深いテーマが描かれます。ブラック・ジャックの行動は、しばしば既存の社会常識や法律と対立しますが、それは彼が**「生命そのものの尊厳」**を最優先するためです。
ピノコ: 彼の唯一の助手が、体の一部が結合した状態の奇形嚢腫から、ブラック・ジャックによって人間の形を与えられた少女、ピノコです。彼女は「アッチョンブリケ」などの独特な言葉遣いをし、ブラック・ジャックを「お父様」と呼んで慕い、物語のシリアスな展開の中で、ユーモラスで温かい役割を果たします。
ブラック・ジャックは、無免許でありながら、時に冷徹に、時に温情を持って生命と向き合い続ける、孤高の天才医師の生き様を描いた作品です。